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産業医が考える復職とは?円滑な復職に向けて会社ができることとは
休職者がスムーズに復職し、休職を繰り返さないで働くために、会社はサポートすることが大切です。また、社員をサポートする役割として、会社には産業医がいるところもあるでしょう。この産業医は、復職のときにはどのような役割をしているのでしょうか。
今回は、復職のために会社ができるサポートとはなにかを紹介します。そのうえで、産業医が復職OKと判断するポイントや産業医と主治医との違い、復職後のフォローはどうしたらよいか、などについてくわしくみていきます。
目次
社員の円滑な復職のために会社ができるサポートとは
会社で休職者がいた場合、意外とわからないのが復職のときの対応ではないでしょうか。せっかく復職しても、またすぐに休職になってしまってはお互いに大変です。また、休職している社員と顔を合わせることができない状態で、復職の相談や手続きを進めなければいけません。
そこで、社員の円滑な復職のために会社ができるサポートとは、なにがあるのでしょうか。以下にまとめました。
きちんとした就業規則を作る
まずは就業規則をととのえることが大切です。就業規則は、社労士に依頼して作ってもらうこともできます。休職や復職に関していえば、メンタルヘルス法務主任者の資格をもった社労士なら、過去の判例を参考にした就業規則を提案できるでしょう。
社員が復職するときには、就業規則にもとづいて公平に対応していくことが重要です。あくまで客観的に対応しましょう。お互いに納得のいく復職がしやすくなります。
なるべく早く復職時に必要な情報を提供する
就業規則では、復職に必要な条件などが決められています。しかし、それを社員が知っていなければトラブルの原因になりうるのです。
休職期間や復職にあたっておこなう手続きなどのさまざまな情報を、社員になるべく早めに伝えておくことが大切です。会社の上司や人事担当者などが制度をしっかりと理解し、普段から社員に周知しておくとトラブルを防ぐことができるでしょう。
復職に必要な条件を明確にする
復職に必要な条件は、明確に定めておくことをおすすめします。条件をはっきりしておけば、会議などにかけて複数の立場の人で組織的に決定することができるからです。
さまざまな情報を集めたうえで組織的に決定すれば、誰かひとりが責任を負うこともなくなります。復職に必要な条件とは、おもに以下のとおりです。
○主治医の先生による『復職可能』の診断書
社員本人の申告ではなく、主治医の診断書が必要です。療養中は元気になっていたとしても、職場ではストレスがかかるため焦って復職すると再休職になってしまいます。負荷をかけてもよいかどうか主治医の判断をあおぎましょう。
○生活記録表
主治医から復職可能という診断書が出たら、次に「生活記録表」をつけましょう。安定した睡眠がとれているか、起床時に疲労感はないかなどを記録します。さらに、就業時間内に図書館などで仕事に関する作業をしてもらい、その状況も記録するのです。
その記録をもとに、勤務時間の就労が継続して可能であるか、業務に必要な作業をこなすことができるかなどを判断していきます。
○なぜ体調不良になったのかの分析
休職者本人に、なぜ体調不良になったのかを分析してもらうことも重要です。自分で考えるということは自分に向き合うことになります。自分に向き合うことなく復職しても、同じことが起こってしまうことが多いため、自分で対策を考える時間をもつようにしましょう。
具体的な原因がわかったら、公的機関の助けをふくめ、原因を解決するためのサポートを考えていくことになります。
○体調を悪化させないための予防方法
生活習慣の乱れや喫煙、飲酒などがある場合は、具体的な改善策を考えましょう。体調を悪化させないための予防になります。このとき、時間や場所を決めるなど、目で見えるような具体的な取り決めをしておくことが有用です。
○体調が悪化してしまったときの具体的な対応
万が一また体調が悪化してしまったときのために、具体的な対応もあらかじめ決めておきましょう。こちらも、「3日以上眠れないときは休む」「月の7割欠勤したときは休職を検討する」など具体的に数字で考えておくとよいです。
主治医と産業医の意見が違ったらどちらを優先するべき?
産業医がいる職場では、復職するときに主治医と産業医の判断が必要になります。では、主治医と産業医の意見が違う場合、どちらを優先したらよいのでしょうか。
主治医と産業医は役割が違う
そもそも、同じ医者でありながら主治医と産業医の意見が違うという事態はなぜ起こるのでしょうか。それは、役割の違いに原因があります。
主治医の役割は患者を治療することです。患者が日常生活を送れるところまで回復したら、役割を果たしたといえるでしょう。一方で産業医の役割は、労働者として職場で勤務できるかどうかを判断することです。
このような役割の違いから、主治医と産業医では意見が違ってしまうことが出てくるのです。過去の事例では、産業医の意見を採用することが認められたものもあります。自分だけで勝手に判断しないようにしましょう。
産業医に「診療情報提供書」を書いてもらう方法もある
主治医と産業医の意見が違って困ったときに、直接両者で意見をすり合わせてもらうこともできます。産業医に「診療情報提供書」という紹介状のような書類を書いてもらい、主治医の意見をあおぐのです。
主治医がこれに返事を書き、両者の意見をすり合わせることができれば、判断がしやすくなります。意見を確認することで、より的確な判断ができることも期待できます。
産業医が復職OKと判断するポイント
主治医と産業医の役割が違うことはおわかりいただけたでしょうか。では、産業医の立場ではどのようなときに復職をOKとするのか、ポイントをみていきましょう。
○仕事を想定した生活リズムができているか?
まずは出勤する時間に起床することができる、通勤と同じ時間の同じ電車に乗ることができるなど、生活リズムがととのっていることが大切です。仕事を想定した生活リズムが戻っているかどうか、生活記録表も参考にしながら細かくヒアリングをして判断されます。
○業務環境と健康のバランスはとれているか
とくに重要なのは、業務環境が健康に見合ったものであることです。通勤や職場の業務負担と健康レベルとのバランスがとれているかを判断します。復職当初の業務負担を軽減する措置が、気力や体力、業務力などの調整可能なレベルに達していればよいのです。
これらを判断するためには、復職準備プログラムを実施して実際の行動や生活、心理的な安定を確認します。ただし、あくまで休職中のプログラムなので限定的なものになってしまいます。
○振り返りと再発予防への対策ができているか
なぜ体調不良になってしまったのかをしっかりと振り返り、再発を予防するだけの対策ができていることも重要です。気づけばまた体調が悪化していたということがないように、しっかりと対策を説明できるかどうかで判断されます。
復職後のフォローアップを大切に
慎重に判断をして復職が実現しても、さまざまな要因がかかわって想定通りにいかないこともあります。復職後はフォローアップをすることが大切です。
フォローアップは長い目で
復職が可能になっても、最初からたくさんの業務を頼むことは避けましょう。長期の休職後は本人が安定しているように見えても、業務の慣れや勘などが弱まったり、持久力や応用力が低下したりしているのです。また、緊張して疲れやすくもなっています。
さらに、休職しているあいだに業務の流れやチームのメンバー、パソコンの中身などさまざまなことが変わっていることも多いです。適応していけるように支援する必要があります。
徐々に慣らしていけるような業務時間を設定し、出張や休日出勤を避けるなどの配慮をしましょう。いろいろな業務を一度に頼むのでなく、ひとつずつ順番に頼んでいくとよいでしょう。業務の難易度についても、状況をみて少しずつ慣らしていくようにします。
家族の協力やサポートも借りましょう
家族は、働く人が「いつもと違う」状態であることに気づきやすいです。異変に気づいて受診をすすめたり、休職中の生活をサポートしたりと回復には欠かせない存在です。家族の協力やサポートが得られる場合は、積極的にお願いしましょう。
一方で、将来や家計の心配など、家族も不安になることが多いです。しかし、家族が復職をあせらせてしまうことや過剰な期待をしてしまうことは、回復を遅らせることにもつながります。
家族の悩みを聞いたりサポートしたりする体制を作ることも、働く人が回復するためには大切なことです。
産業医と上手に付き合いながらフォローを
復職後のフォローアップが大切であることを説明してきました。しかし、実際に職場の上司や人事担当者だけでフォローアップをしていくことは大変な面もあります。そんなときは、産業医と上手に付き合いながらフォローしていきましょう。
産業医との上手な付き合い方3大原則を以下に紹介します。
○なにかあれば遠慮しないで早めに相談をする
職場内で対応しているうちに、どんどん状況が煮詰まってしまうということがあります。なるべく早いタイミングで、遠慮しないで産業医に相談しましょう。
○面談前にしっかりと情報をシェアする
産業医の多くは非常勤であるため、職場の普段の状況をわからないまま面談となってしまうおそれがあります。面談前に経過や情報を整理し、シェアしておくことが大切です。
○産業医とよい関係性をもつ
職場と産業医とがよくコミュニケーションをとり、よい関係性をもつことは、職場の安全配慮や危険管理の面でも有効です。産業医と担当者がお互いの意見をいい合える関係になっていれば、休職者も助かります。
以上のように、産業医と上手に付き合い、連携しながら復職者のフォローをおこなっていきましょう。
まとめ
休職者が復職するときには、会社は就業規則にもとづいて、復職に必要な情報を早く提供すること・条件を明確にすることが必要です。
また、復職には主治医と産業医の意見が必要ですが、両者は役割が違い、意見も違っていることがあります。産業医が復職OKと判断するポイントを参考にしてみてください。主治医と産業医で意見を交換してもらうこともできます。
さらに、復職後はフォローアップが大切になります。家族にも協力してもらいながらあせらず長い目で見守りましょう。産業医と上手に付き合って連携してフォローしていくことが有効です。
このような産業医についてまずはよく知り、上手に付き合いながら復職者をサポートしていきましょう。